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若き人への「はなむけ」

実はもう数年前からの話なのですが、ある学生の友人がおります。彼女は演劇をしてみたり、小説をかいてみたり(といっても「羞恥心」をネタにしたやおい小説ですが…)、とにかくいつも「時間のない」女の子でした。聞けば中学校から有名な女子校の出身だそうで、話をしていても彼女の頭の切れ味が悪いと感じたことはほぼない、立派な女性に成長する可能性を持っている有望な若い人と思っておりました。人懐こい彼女は度々私に電話を掛けてきていました。

私は演劇にはとんと興味がないし、やおいもあまり興味がないので、彼女から電話がかかってくると、私はいつも立て板に水の如く喋る彼女の話をずっと訊いている、そんな関係でした。

しかし、ある日、彼女からかかってきた一本の電話は、いつもの弾むような元気さは皆無の、今にも泣きそうな声の電話でした。「どうしたー?何かあったかー?」と訊くと、

「私、母と弟からぼこぼこにされました」

というではないですか。泣き崩れた彼女の声は、言葉にならないので、私はまず彼女を落ち着かせてから事情を聞きました。ちなみに、彼女によると、彼女のお父様はお仕事であまり家に帰らない方なのだそうです。そしてお母様は心理カウンセラーのお仕事をボランティアでしていらっしゃる方だそうです。弟さんは生徒さんでした。年のころはハイティーンでしょう。

「私、家を出て彼氏のウチに行きます!」というので、「その彼氏さんは、あなたにとって信頼できる人なの?」と訊くと「はい」というので、私は非常にいぶかしみました。何故なら、そんなに信頼できる彼氏がいるなら、何故私のところに真っ先に電話を掛けてきたんだろう?私、そこまで彼女とは親しくしていないはずだけど。彼氏さんにまず話したらどうだろう…そして、お父様は?

そう思いつつも、情にほだされて、お母様(と弟さん)vs彼女の、時に激しい暴力の振るい合い、時に醜い罵り合いを、電話で何度も涙ながらに語る彼女にただただ、相槌を打っていました。

そのうち、「遂に彼氏と別れました!新しい彼氏が出来て、その人はとっても頼りになるんです!」といつにない弾んだ口調で電話がかかってきました。「前彼はヒドかったんで。今度こそ幸せになるんです♪」結婚するのか?と訊くと「彼氏はバイセクシュアルなんですよ~」え?

ええっ?!Σ(゚Д゚”;)

彼女に「あの…彼氏って、女性なの?」と私が訪ねたところ(電話を掛けてくる彼女はヘテロセクシュアルだったはずなので)「いえ♪オトコです♪おかまちゃんなんです♪」

私にはかなりの驚きがありましたが、それは言いますまい…何せ前の優しいのか冷たいのか分からん彼氏と別れて、こんなに弾んだ声で幸せになる!と言っている彼女に冷や水を浴びせるようなことは、今は言えないと思ったのです。夫も「多分それ、別れるやろなぁ…」と言っていました。私もそう思っていました。何故なら、恋人同士の信頼関係と性的な満足がかみ合わないカップルがそう簡単に幸福になれるとは、は思えそうになかったのです。

案の定、運命のメールが今年の1月、松の内を過ぎて早々に届きました。時間は0:50着信になっていました(私は携帯の電源を寝る前に落として寝ます)。

sub:駄目だー

○○(彼女の通り名)ですが…

全然幸せになんかなれないです…

自分の存在価値がまったく無い気がして。

使えない人間と思われてる人生、本当に楽しくないです…bearingbearingbearingbearing(←こういう感じの顔文字が4個付いていました)

朝起きてからそれを見たのですが、案の定か、と正月早々溜息をついてしまいました。

「どんな家庭の事情があったかもしれないけど、それって全部アナタ自身のせいだよ」

と本当はいいたかったのですが、最後にアドバイスしてからにすることにしました。情けは人の為ならず。

○○ちゃん

携帯の電源を、寝るとき切っているので遅くなってごめんね。

事情がわからないから適切な事がいえるか分からないけど、今の環境の中で必要とされていないからって世界中の誰もが○○ちゃんを必要としていないとは限らんじゃん?

恋人に裏切られたり友達がいないつらさは分かるよ。とくに、友達については私若い頃いつも一人だったから。みんなのお喋りを転がすスピードについて行けないし、話題は興味わかんし、寄って来る奴は私を利用しようとするから、いつも仕方なく一人だったよ。

だから、「いつか誰かに出会える、その時の為に」と思って勉強してた。色んな方向の。あと○○ちゃんが孤立無援なら、まずは仕事(バイトでもなんでもいいよ)で、人の役に立つことをしてみたらどうかしら。すこしは孤独が和らぐ。仕事、勉強。これが差し当たって今の苦しさを乗り越える方法になると思うよ。簡単に死んだりしないで、頑張って。

不幸のどん底にいる人間にもっと優しい言葉はないんかい?言う向きもあるかもしれませんし、誰かと出会えるかどうかなんて保証出来ないことの為に勉強を一生懸命しろというのか?という向きもあるでしょう。でも少なくとも、仕事は一生懸命やれば多少の見返りはあると思います。

これが私なりの、せめてものはなむけのメッセージです。はなむけ、というのは、彼女にエールを送る私の気持ちからこう書かせて頂きました。それからメールは来ていません。もうずっとこないでしょう。でもどこかで彼女が幸せを噛み締める日は、多分、くるでしょう。

いつか、

幸せに。

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